仲裁

仲裁条項の書き方

仲裁申立てを行うには、当事者間で、仲裁申立て前に、紛争を仲裁により解決することを書面により合意しておくことが必要です。当事者が仲裁合意を締結するタイミングは、「紛争が発生する前」と「紛争が発生した後」の大きく分けて2つありますが、紛争が生じてからの当事者間での合意は非常に難しいのが現状ですので、基本的には、「紛争が生ずる前」の契約段階で予め合意をすることをお勧めします。

例えば、取引基本契約の一条項(仲裁条項)として、仲裁合意を規定する場合がこれに当たります。

なお、当協会はモデル英文契約書を販売しております。付属のCD-ROMには、モデル英文契約書がWord形式で収録されており、仲裁条項を含めた英文契約書を作成する際に非常に便利です。

詳細は、モデル英文契約書のご案内ページをご覧ください。

  1. JCAAが推奨する仲裁条項
    • 「商事仲裁規則」によって仲裁を行う場合の仲裁条項例
    • 「インタラクティヴ仲裁規則」によって仲裁を行う場合の仲裁条項例
    • 「UNCITRAL仲裁規則」+「UNCITRAL仲裁管理規則」によって仲裁を行う場合の仲裁条項例
  2. 仲裁条項のオプション
    • 仲裁人の数、言語の規定
    • 迅速仲裁手続の適用
  3. 仲裁条項の様々なバリエーション
    • 仲裁機関をJCAA、仲裁地を日本の都市とし、言語等の条件を相手企業に譲歩する仲裁条項の例
    • 仲裁を申し立てる場合に相手国を仲裁地とする交差型仲裁条項(被告地主義仲裁条項、クロス条項とも呼ばれます)の例
  4. 紛争が発生した後に、仲裁合意をする場合
  5. 仲裁条項に関する個別テーマ(コラム)

1.JCAAが推奨する仲裁条項

仲裁条項の内容が不明瞭であると、契約違反の有無だけではなく、仲裁条項の不備までもが紛争の原因となる可能性があります(結果として、仲裁条項が仲裁廷あるいは裁判所により無効と判断される可能性があり、また、JCAAを指定した仲裁条項が明らかに存在しないとJCAAが判断した場合には、そもそもJCAAが仲裁申立てを受理すること自体をお断りしなければならないこともあり得ます)。JCAAでの仲裁を希望される場合は、以下の標準条項を契約書に記載することをお勧めいたします。

JCAAを指定する仲裁条項の記載に関するお問合せ先 【JCAA仲裁調停部連絡先

「商事仲裁規則」によって仲裁を行う場合の仲裁条項例

この契約から又はこの契約に関連して生ずることがあるすべての紛争、論争又は意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って仲裁により最終的に解決されるものとする。仲裁地は東京(日本)とする。
(英文)
All disputes, controversies or differences arising out of or in connection with this contract shall be finally settled by arbitration in accordance with the Commercial Arbitration Rules of The Japan Commercial Arbitration Association. The place of the arbitration shall be Tokyo, Japan.

【ポイント】
実務上、特に重要な取決めは、
  1. 一定の紛争について仲裁により最終解決をすることを明確にすること
  2. 仲裁機関名を正確に記載すること
  3. 仲裁地
の3点です。

仲裁地は、仲裁手続に適用される国の法律等を確定する基準となる上、証人尋問等を行う審問を会議室を利用して行う場合には、実際には仲裁地と指定された都市において開催されることが多く、実務上重要な項目です。

さらに、JCAAにおいて仲裁手続を行う場合、当事者は、3つの仲裁規則の中から当事者のニーズに合った規則を選択することができます。仲裁合意において当事者が仲裁規則を特定せず、単にJCAAのもとで仲裁を行う旨のみを規定していた場合には、商事仲裁規則が自動的に適用されます。インタラクティヴ仲裁規則又はUNCITRAL仲裁規則にはそれぞれ特徴・メリットがありますので、それがふさわしいと合意できるようでしたら、仲裁条項においてこれらの規則を指定しておくこともできます。

「インタラクティヴ仲裁規則」によって仲裁を行う場合の仲裁条項例

この契約から又はこの契約に関連して生ずることがあるすべての紛争、論争又は意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会のインタラクティヴ仲裁規則 に従って仲裁により最終的に解決されるものとする。仲裁地は東京(日本)とする。
(英文)
All disputes, controversies or differences arising out of or in connection with this contract shall be finally settled by arbitration in accordance with the Interactive Arbitration Rules of The Japan Commercial Arbitration Association. The place of the arbitration shall be Tokyo, Japan.

「UNCITRAL仲裁規則」+「UNCITRAL仲裁管理規則」によって仲裁を行う場合の仲裁条項例

All disputes, controversies or differences arising out of or in connection with this contract shall be finally settled by arbitration in accordance with the UNCITRAL Arbitration Rules supplemented by the Administrative Rules for UNCITRAL Arbitration of The Japan Commercial Arbitration Association. The place of the arbitration shall be Tokyo, Japan.

2.仲裁条項のオプション

上記の推奨条項に加えて、当事者間の交渉により、仲裁人の数、要件(国籍、資格、経験等)、仲裁手続言語等が取り決められることもあります。

詳細な説明と仲裁条項と並んで紛争解決関連の重要な取決めである準拠法条項については、「5.紛争解決条項に関する個別テーマ」をご覧ください。

当事者が仲裁人の数や手続言語を規定したい場合は、次のような条項の追記が考えられます。

仲裁人の数は(人数)とする。
(英文)
The number of the arbitrators shall be (number).

仲裁手続は(言語名)で行われるものとする。
(英文)
The arbitral proceedings shall be conducted in (language).

迅速仲裁手続の利用

商業仲裁規則およびインタラクティヴ仲裁規則では、紛争額が3億円以下の場合、原則として迅速仲裁手続が適用されますが、当事者が紛争金額にかかわらず迅速仲裁手続を利用することを希望する場合、契約書に以下の条項を入れることをお勧めします。

この契約から又はこの契約に関連して生ずることがあるすべての紛争、論争又は意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則*の迅速仲裁手続に従って、仲裁により最終的に解決されるものとする。仲裁地は東京(日本)とする。"
(英文)
All disputes, controversies or differences arising out of or in connection with this contract shall be finally settled by arbitration in accordance with the expedited arbitration procedures of the Commercial Arbitration Rules* of The Japan Commercial Arbitration Association. The place of the arbitration shall be Tokyo, Japan."

* インタラクティヴ仲裁規則による場合でも迅速仲裁手続を選択することができます。

3.仲裁条項の様々なバリエーション

仲裁条項を定めるにあたり、当事者双方の利害・主張が対立する場合には、JCAAでの仲裁を希望したとしても、交渉によって一定の妥協が必要とされるケースがあります。以下の例は、そのような交渉の結果、実際に当事者間で締結されることのある仲裁条項のパターンです(なお、仲裁条項例は、参考例としてJCAAにおいて作成をしたものです)。

以下では、参考情報として、各パターンについて、検討のポイントをご紹介させて頂いておりますが、これらは個々の取引において検討すべきポイントやリスクの全てを網羅したものではありません。これらのバリエーションを含め、標準仲裁条項と異なる仲裁条項を作成される場合は、狙い通りに上手く機能するかどうかについて弁護士の方にご相談頂くのが安全です。
JCAAとしても可能な範囲で対応いたしますので、お問合せください。

JCAA仲裁調停部連絡先

仲裁機関をJCAA、仲裁地を日本の都市とし、言語等の条件を相手企業に譲歩する仲裁条項の例

<内容>

  • 当事者:日本企業、中国企業
  • 仲裁機関:JCAA
  • 仲裁規則:JCAAの商事仲裁規則
  • 仲裁地:日本、東京
  • 仲裁人の数:3名
  • 仲裁人の国籍:中国
  • 手続言語:中国語
  • 準拠法:中国法

この契約から又はこの契約に関連して生ずることがあるすべての紛争、論争又は意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って仲裁により最終的に解決されるものとする。仲裁地は東京(日本)とする。仲裁人の数は3名とし、仲裁人はいずれも中国国籍を有するものとする。仲裁手続は中国語によって行う。この契約は中国法に準拠し、解釈されるものとする。
(英文)
All disputes, controversies or differences arising out of or in connection with this contract shall be finally settled by arbitration in accordance with the Commercial Arbitration Rules of The Japan Commercial Arbitration Association. The place of the arbitration shall be Tokyo, Japan. The number of arbitrators is three and the nationality of any arbitrator shall be that of China. The arbitral proceedings shall be conducted in Chinese. This contract shall be interpreted in accordance with, and governed by, the laws of China.

【ポイント】
  1. 仲裁手続に伴う時間・費用を節約する観点から自国(日本)の仲裁機関、日本を仲裁地として選び、仲裁人の国籍、手続言語等については相手方(例では中国)に譲歩した仲裁条項です。
  2. 交渉にあたっては、実際に仲裁手続が開始した場合に、適性水準の仲裁人、代理人弁護士の確保が可能かどうかを検証しておく必要があります。
  3. JCAAは各国の仲裁人候補者のデータベースを保有しています(了解をいただけた方については仲裁人候補者リストとして公開しています)。実際、3名の仲裁人全員が外国人である仲裁案件も少なからずあります。
仲裁を申し立てる場合に相手国を仲裁地とする交差型仲裁条項(被告地主義仲裁条項、クロス条項とも呼ばれます)の例

<内容>

  • 当事者:日本企業、外国企業
  • 仲裁地:被申立人の所在国
  • 仲裁機関、仲裁規則:被申立人の所在国にある仲裁機関、その機関の規則

この契約から又はこの契約に関連して、当事者の間に生ずることがあるすべての紛争、論争又は意見の相違は、仲裁により最終的に解決されるものとする。X(外国法人)が仲裁手続を開始するときは、一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に基づき仲裁を行い、仲裁地は(日本の都市名)とする。Y(日本法人)が仲裁手続を開始するときは、(仲裁機関の名称)の(仲裁規則の名称)に基づき仲裁を行い、仲裁地は(外国の都市名)とする。
当事者の一方が上記の地のうちの一においてその仲裁機関の規則に従って仲裁手続を開始した場合には、他方の当事者はその仲裁手続に排他的に服し、他の仲裁手続も訴訟手続も開始してはならない。その仲裁機関によって仲裁申立てが受領された時をもって、仲裁手続がいつ開始したかを決定する。
(英文)
All disputes, controversies or differences arising out of or in connection with this contract shall be finally settled by arbitration. If the arbitral proceedings are commenced by X (foreign corporation), arbitration shall be held pursuant to the Commercial Arbitration Rules of The Japan Commercial Arbitration Association and the place of the arbitration shall be (the name of the city in Japan); if the arbitral proceedings are commenced by Y (Japanese corporation), arbitration shall be held pursuant to (the name of rules) of (the name of arbitral institution) and the place of the arbitration shall be (the name of the city in foreign country).
Once one of the parties commences the arbitral proceedings in one of the above places in accordance with the rules of the respective arbitral institution, the other party shall be exclusively subject to the arbitral proceedings and shall not commence any arbitral proceedings as well as court proceedings.
The time receipt of the request for arbitration by the arbitral institution determines when the arbitral proceedings are commenced.

【ポイント】
  1. 当事者双方がそれぞれ自国の仲裁機関(あるいは仲裁地)を主張して合意に達しない場合、第三国の仲裁機関(仲裁地)を選ぶのも一つの選択肢ですが、仲裁手続は、代理人選任を含め、双方にとって高コストとなることは避けられません。
  2. 交差型仲裁条項は、当事者双方に対して、相手国での仲裁申立てが一定のハードルとして機能しますので、仲裁申立てを回避して交渉による解決を促す効果が期待されます。
  3. この方式を採用する場合には、きちんとした司法制度が確立していることとともに、相手国に信頼できる仲裁機関が存在することを検証しておく必要があります。
  4. この方式のデメリットとして、同一案件について別々の仲裁手続が並行して行われる恐れがあるのではないかという指摘がされることがありますが、このようなリスクは上記の仲裁条項例の第2文の定めをしておくことによりに回避可能と考えられます。
  5. なお、この交差型仲裁条項と似て非なるものとして、「当事者はそれぞれ自国の仲裁機関に申し立てできる」とする条項(「原告地主義」)がありますが、これは早く自国での仲裁申立てをすることを促進する効果を持ちますので、お薦めできません。

4.紛争が発生した後に、仲裁合意をする場合

紛争が発生した後、すなわち、既に生じた紛争を仲裁で解決することを当事者間で合意することも可能です。実際の例として、当初の契約書では裁判管轄条項が規定されていたところ、紛争発生後に、JCAAを指定した仲裁合意が成立することもあります。

条項例は、サンプル文例Wordをご覧ください。

5.仲裁(紛争解決)条項に関する個別テーマ(コラム)

比較的最近発行されたJCAジャーナルから、紛争解決条項の関連記事をご紹介します。

  1. 仲裁条項を巡る交渉PDF2020年10月号
  2. 「準拠法」を巡る交渉PDF2020年11月号
  3. 「仲裁機関」を巡る交渉PDF2020年12月号
  4. 「仲裁地」を巡る交渉PDF2021年1月号
  5. 「仲裁手続の言語」についてPDF2019年11月号
  6. 「仲裁人の数」についてPDF2019年10月号
  7. 中国での仲裁判断の執行を念頭に置いた仲裁条項PDF2021年4月号
  8. 台湾での仲裁判断の執行を念頭に置いた仲裁条項PDF2021年6月号

なお、記事の一部内容に、ウェブサイトの記載内容と異なる点がありますが、仲裁条項のドラフティングの一つの方法としてご紹介をしております。